事業シミュレーションの一例(1)

今月はペンネーム、エクセルマニアがお届けします。
以前に勤めていた会社で、事業のシミュレーション業務に携わったことがあります。意思決定に関わる一連のメソッドの中で、個人的に気に入っていたのが、これからご紹介するシミュレーション手法です。

 

その前に、企業で経営企画を生業にしていると、好むと好まざるとに関わらず、事業計画やら中期計画やらに関与するわけで、特に若い頃は、数字の集計や資料作りが仕事の大半でした。各部門が作る数字を集計しながら思ったのは、「この数字の根拠は何?」
市場環境、先行指標、過去の実績に基づく推定など、将来数値を予測する方法は数々あれど、それ以上に「勘」や「思い込み」が強いように感じられたのです。いわゆる「一点読み」とか「ホッケースティック型」の数値が、そこかしこに……。そして思いました。「根拠は?」

企業評価システム実践研究会_コラム_事業シミュレーションの一例(1)

1日に店に来るお客さんは平均で何人?そのうち買ってくれるのは何人?1ヵ月で何個売れる?原材料費は?人件費は?そもそも商品開発は予定通り完了する?新商品の発売時期は?競合の動向は?

次に、少し良く出来た計画では、ベストシナリオ、ワーストシナリオが入っていました。うまくいけばこんなに……。最悪の場合は……。そしてまた思うのです。「根拠は?」。10%アップ、15%ダウン、「何故?」と。

この現象は、企業規模の大小には関係なく、大企業だから計画が精緻だとか、小さいからドンブリだとかではないでしょう。その企業(経営者)の考え方次第です(業種も規模も様々な企業を渡り歩いた経験より)。

さて、どうしたものか?
そんなときに出会ったのが、確率を用いたシミュレーション方法でした。天気予報で、降水確率10%と聞けば、まあ雨は降らないだろうと思うが、降るかもしれない。降水確率90%と聞けば、傘を持って出かけるが、降らないかもしれない。そうした滅多にないような可能性までも確率としてシミュレーションに組み込んで計算するものです。結果はNPV※1がグラフと期待値で算出されます。

企業評価システム実践研究会_コラム_累積確率曲線
企業評価システム実践研究会_コラム_累積確率データ

具体的なシミュレーションの進め方について、以下の4つのステップでご説明します。
 ①事業構造の整理
 ②不確実要素の数値の推定
 ③シミュレーションモデルの作成
 ④シミュレーションの実施

先ず、①事業構造の整理です。

企業評価システム実践研究会_コラム_事業構造

ご覧のように、事業価値=NPV※1を構成する要素を分解し、事業の構造と、その中の不確実要素を明らかにします。

企業評価システム実践研究会_コラム_事業シミュレーションデータ

次に、②不確実要素の数値の推定です。ここでは、最も起きるだろうベースケース、滅多に起きないだろうハイケースとローケースの3つの数値を考えます。

ローケースは10%の確率で起きうる数値。降水確率10%でも雨が降る場合の数値。滅多に起きないが、起きるかも知れないケースを考えます。ハイケースは逆に、降水確率90%でも雨が降らない場合の数値です。

その分野に長く関わった人ほど、可能性を狭く見てしまいます。専門家ゆえに、より正確な数値を予測しなければ、と考えるのかも知れませんが、今やVUCA※2の時代、何が起こるかは誰にもわかりません。思い切って幅広く可能性を捉えることが必要でしょう。

長くなったので、③④は次回のお楽しみに。
※1 Net Present Value(正味現在価値):将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計から、初期投資額を差し引いた値
※2 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧さ)の頭文字を取った用語。組織やビジネス環境が不安定で予測困難な状況

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